2008年度の数学系月例談話会


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2009年2月5日(木) 15:30−16:30(時間にご注意下さい)
会場:自然系学系棟D棟, 8階 D814

梁 松 氏 (筑波大学大学院数理物質科学研究科)
「拡散過程の古典力学系による導出」
アブストラクト:
例として,ブラウン運動を考えます.ブラウン運動は1827年にBrownが水に入れた花粉の動きを観察するときに発見した現象としてよく知られ,現在で はたくさんの分野で用いられています.この「大粒子の不規則な運動」の原因が長い間不明でしたが,1905年,Einsteinにより次のように説明され ました:大粒子はたくさんの(大粒子と比べとても軽い)水分子の不規則な衝突によって動かされますので,もし作用する水分子の状態が独立であると仮定すれ ば,独立同分布な確率変数の和に関する極限定理により,(数学的な意味の)ブラウン運動が導かれます.しかし,大粒子と水分子の相互作用は大粒子のみなら ず水分子の動きにも影響し,影響された水分子がまた大粒子と相互作用し得るので,「各時刻における水分 子の状態が独立である」という仮定は,厳密的には正しくありません.我々は,この「再相互作用」を考慮に入れた古典力学系モデルを考えます.環境の初期条 件は理想気体であるとし,小粒子の質量が0に収束するときの,大粒子の挙動を調べ,拡散過程に収束することを示しました.


2008年12月18日(木) 15:00−16:00(時間にご注意下さい)
会場:自然系学系棟D棟, 8階 D814

天野 勝利 氏 (筑波大学大学院数理物質科学研究科)
「D-加群代数のPicard-Vessiot理論」
アブストラクト:
Picard-Vessiot 理論とは, 元来は線形常微分方程式に対する Galois 理論のことをいいますが, さらに正標数化や, 差分類似などの多くのバリエーションがあり, 成熟した分野となっています. さて, 微分・差分 Picard-Vessiot 理論で用いられる微分体・差分体の概念は, 余可換な Hopf 代数 D上の加群代数として一般化することができ, D-加群代数に対して統一的な Picard-Vessiot 理論を構築することができます. 本講演では, なるべく多くの具体例を出しながらその拡張されたPicard-Vessiot 理論についてお話したいと思います.


2008年12月18日(木) 16: 30−17:30(時間にご注意下さい)
会場:自然系学系棟D棟, 8階 D814

久保 隆徹 氏 (筑波大学大学院数理物質科学研究科)
「perturbed half-spaceやaperture domainでのNavier-Stokes流について」
アブストラクト:
水や空気などの流体の流れを理解することは工学的に非常に重要である.例えば,自動車や航空機などの輸送機関において,高速化,燃費の節約,安全性の向上 などを進めるためには流れの振る舞いを正確に理解する必要がある.また身近な問題では,天気予報の精度の向上のためや洪水などの大災害を未然に防ぐために は空気や水の流れの性質を十分理解する必要がある.最近では,騒音問題の解決にも空気の流れの振る舞いの理解が必要であることが実験検証の立場から分かっ てきた.

流体力学という学問は,そのような様々な流体の流れを理解するための学問である.その流体力学の基礎方程式として,次の Navier-Stokes 方程式がよく知られている:Navier-Stokes 方程式は,フランスのNavierとイギリスのStokes によって導出された方程式である.Navier-Stokes 方程式は多くの数学者によって様々な観点から研究されてきた.例えば,定常流の安定性の研究や,回転運動,または並進運動をする障害物の周りの流れの研 究,様々な境界条件と流れとの関係,様々な領域と流れとの関係など,様々な観点から研究がなされてきている.

私の研究の根幹にあるテーマは,「様々な領域と流れとの関係の追求」にある.特に,非有界な境界をもつ領域での流体の流れに 興味を持っている.本講演では,今まで盛んに研究がなされてきた領域,特に外部領域と比較しながら私が考えている領域で分かったことを紹介する.


2008年11月20日(木) 15:00−16:00(時間にご注意下さ い)
会場:自然系学系棟D棟, 8階 D814

石井 敦 氏 (筑波大学大学院数理物質科学研究科)
「ハンドル体絡み目とカンドルコサイクル不変量」
アブストラクト:
3次元球面へ埋め込まれたハンドル体をハンドル体結び目(handlebody-knot)と呼びます.またいくつかのハンドル体結び目の非交和をハンド ル体絡み目(handlebody-link)と呼びます.二つのハンドル体絡み目は3次元球面のイソトピーによって移りあうときに同値であると定義しま す.講演では,ハンドル体絡み目に対して基本変形を与え,大阪市立大学の岩切雅英氏との共同研究によって得られたカンドルコサイクル不変量を紹介します.


2008年11月20日(木) 16: 30−17:30(時間にご注意下さい)
会場:自然系学系棟D棟, 8階 D814

伊藤 健一 氏 (筑波大学大学院数理物質科学研究科)
「Schrödinger equations on scattering manifolds and microlocal singularities」
アブストラクト:
本講演では,散乱多様体(漸近的Euclid多様体)上でのSchrödinger時間推進作用素による波面集合の伝播について紹介する.一般 に,量子的時間推進作用素の作用は,相空間で見ると,低階の誤差を除いて,古典的時間推進作用素で記述される.そのために波面集合は,それが古典的には運 動量無限大の成分に対応することから,有限時間の間に無限遠方に飛び去ってしまう.飛び去ってしまった波面集合を有限領域に引き戻すためには,非摂動系を 導入し,非摂動時間推進作用素を作用させれば良い.この`散乱多様体に対する標準的非摂動系'の導入は,上述の問題の他にも,散乱多様体上での一般的な散 乱理論の展開を可能とする.本講演の内容は中村周教授(東京大学)との共同研究に基づく.


2008年10月23日(木) 15: 00−16:30(時間にご注意ください)
会場:自然系学系棟D棟, 8階 D814

坪井 俊 氏 (東京大学大学院数理科学研究科)
「微分同相群の一様完全性」
アブストラクト:
多様体構造の自己同型群が多様体の微分同相群です.微分同相群は,一般のファイバー束の構造群として現れますが,この群の代数的な性質は葉層構造の研究と 関係して研究されてきました.特に,微分同相群の恒等写像成分の群が多くの場合完全群となることは,葉層構造の構成や分類に重要な役割を果たしました.完 全群とは,アーベル化が自明な群となることをいいます.あるいは,交換子群が全体と一致する群のことです.群が一様完全というのは,任意の元が交換子の積 に書かれ,その交換子の個数が有界であることをいいます.このような性質は,球面の同相写像の群に対して,60年くらい前にすでに研究されています.この 講演では,球面の微分同相群の恒等写像成分の元は,3個の交換子の積に書かれること,偶数次元閉多様体が,中間指数のハンドルを持たないハンドル分解を持 つならば,その微分同相群の恒等写像成分の元は,4個の交換子の積で書かれること,奇数次元閉多様体の微分同相群の恒等写像の成分の元は,5個の交換子の 積で書かれることについて説明します.


2008年9月18日(木) 14: 00−15:00 (時間にご注意ください)
会場:自然系学系棟D棟, 8階 D814

板井 昌典 氏 (東海大学理学部)
「解析的構造のモデル理論」

アブストラクト:
解析的構造のモデル理論について概観する.特に実数体に指数関数を添加した構造と,複素数体に(複素)指数関数を添加した構造について,モデル理 論的観点から比較する.
最後に「擬指数関数付き代数的閉体」を解析的ザリスキー構造と見なす方法について論ずる.


2008年9月18日(木) 15: 30−16:30(時間にご注意ください)
会場:自然系学系棟D棟, 8階 D814

森下 昌紀 氏 (九州大学大学院数理学研究院)
「Chern-Simons motive in arithmetic topology」
アブストラクト:
Following the analogy between knots and primes, I will discuss analogies between hyperbolic deformation on a 3-manifold and Hida deformation of p-adic modular Galois representations and some associated invariants. In particular, pursuing the analogies of the p-adic L-functions and p-adic polylogarithms in hyperbolic geometry, I will describe the Chern-Simons invariant (Neumann-Zagier potential) in terms of a certain iterated integral over the deformation space, and introduce poly Chern-Simons invariants which give rise to the variations of mixed Hodge structures over the deformation space. The motivic interpretation of (p-adic)polylogarithms (Beilinson-Deligne, K. Bannai) suggests that there would be the ``Chern-Simons motive''. This is the joint work with Y. Terashima.


2008年6月5日(木) 15: 00−16:30 (時間にご注意ください)
会場:自然系学系棟D棟, 8階 D814

洞 彰人 氏 (名古屋大学大学院多元数理科学研究科)
「ヤンググラフ一家の上のランダムウォークの漸近挙動」

アブストラクト:
箱を1つずつ積んでできるヤング図形の成長の履歴を記述するのがヤンググラフです.サイズ$n$のヤング図形と$n$次対称群の既約表現との対応を考えま すと,箱を1つ取り除く操作が表現の制限に,1つ積む操作が表現の誘導に当たります.拙話では,このような分岐則が織り上げる美しいランダムな構造,すな わち枝分れと合流を重ねた末に浮き彫りになる極限の姿を総体としてどう捉えるかについて紹介します.具体的には,ヤング図形の集合に統計集団の性質を与え たり,ヤンググラフの経路全体の空間上に確率測度を導入したりし,いろいろな型の確率論の極限定理を論じます.ヤンググラフには多くの仲間(家族)がいま す.たとえば,個々のヤング図形が担う表現論的な役割を変えたもの,ヤング図形どうしを結ぶ辺に重みを与えたもの,複数のヤング図形の集まりを1つの頂点 とみなしたもの等々.また,ジャックグラフのように一般には群の表現と直接つながりを持たない変種もあります.これらを紹介すると雑多な話になってしまう かもしれませんが,無限対称群の表現や指標と関係する部分を中心にまとめたいと思います.ヤンググラフ一家のご先祖様はやはりパスカル三角形でしょう.つ まりコイン投げです.まずはパスカル三角形上のランダムウォークでいろいろな極限定理を通覧し,拙話のウォーミングアップにしようと思います.


2008年4月24日(木) 15: 00−16:30 (時間にご注意ください)
会場:自然系学系棟D棟, 8階 D814

清水 保弘 氏(日本ユニシス株式会社)
「縮閉線・伸開線・PH曲線を利用した曲率単調曲線の構成〜CAD形状処理の話題から〜」

アブストラクト:
「コンピューターによる形状処理」の分野は,「工業製品や建築物の設計を支援するコンピューターシステム」である"Computer Aided Design"(略称はCAD)とともに発展してきました.CADは,ものの形をコンピューター内に作り出すシステムですから,その実現には,さまざまな 幾何学の知識が使われます.ここでは,乗用車のスタイル・デザインなどに適用される「曲率単調曲線」(渦巻き線)をCADでどのように構成するか?という 話題を材料に,平面曲線の微分幾何の知識がどのように実地応用されるかをお話しします.CADでは,座標をパラメタの多項式関数,有理関数として表示した 曲線表現がよく使われます(それぞれ「多項式曲線」,「有理曲線」とよびます).ここでは,曲線微分幾何でよく知られた縮閉線(曲線の曲率中心の軌跡), 伸開線(曲線に巻き付けた糸を順次伸ばしたときの先端の軌跡)の関係を利用して「曲率単調曲線」を構成する方針を採用しますが,多項式曲線の縮閉線から出 発しても,その伸開線は一般に有理曲線になりません.ここを切り抜けるため,「座標関数の1階導関数間に多項式の範囲でピタゴラスの定理が成り立つ」多項 式曲線である"Pythagorean Hodograph 曲線"(PH曲線)として縮閉線を構成するという手法を用います.こうして,PH曲線→縮閉線→伸開線というルートを経て,有理曲線としての曲率単調曲線 の構成が可能になります.講演では,CADでの多項式曲線・有理曲線の表現方法や,PH曲線を巡る最近の話題についても触れたいと思います.



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