微分トポロジー '23
特異インスタントンフレアホモロジーとコンコーダンス
トポロジー連絡会議の支援するトポロジープロジェクトの一環として開催します。
場所:筑波大学(自然学系棟D棟D509) (ハイブリッド開催)
日時:2023年 3月9日-3月11日
Keywords: インスタントンゲージ理論、フレアホモロジー、へーガードフレアホモロジー、SL(2,C) variety、コンコーダンス、リボン結び目
[概要] 特異インスタントンは、結び目の周りに固定して得られるSU(2)ゲージ理論由来のインスタントンのことである。
そのようなインスタントンを用いることでインスタントンフレアホモロジーが定義される。
このフレアホモロジーは結び目の不変量になっており多くの結び目理論への応用が期待できる。
この研究集会では、特異インスタントンの定義をし、また応用サイドへの可能性を重視している。
確かに、特異フレアホモロジーは低次元トポロジストにとって理解しやすいものとは言い難い。だからと言って素通りしていても何も始まらない。
この集会では、結び目に対するその値の計算や、他の不変量との関係性など素朴な問題設定はもちろんのこと、特異インスタントンフレアホモロジーをどのようにしたら低次元トポロジストにも扱えるようにできるだろうかということも模索する。
Ozsvath-SzaboがSeiberg-Witten不変量を横目にHeegaard Floer homologyを構成したように、もっと本質的で簡潔な理解ができるだろうか。
もしこのような画期的な仕事ができるのならば、我々もOzsvath-Szaboのようになれるのではないだろうか?
現地参加の場合、会場となる自然学系棟D棟D509までの道のり
・TXつくば駅に降りる
・関東鉄道バス(筑波大学循環(右回り))に乗車する(6番のりば)
・第一エリア前で下車
・その後この YouTubeビデオ
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懇親会はやるかどうかは未定です。
確定講演者(敬称略)
- 谷口 正樹(理研)
- 佐藤 光樹(名城大学)
- 佐野 岳人(理研)
- 長郷 文和(名城大学)
- 井森 隼人(京都大学)
- 安部 哲哉(立命館大学)
スケジュール(敬称略)
3/9(木) |
3/10(金) |
3/11(土) |
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Lunch |
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タイトルとアブストラクト
- 3/9(木)
- 15:00-16:00
谷口 正樹 結び目とFloer理論
Floer理論は3, 4次元(contact/symplectic)トポロジーにおいて非常に強力な手段を与えることが知られている. その際たる応用例して, Milnor予想, Weinstein予想, Property P予想の解決, 高次元位相多様体の三角形分割予想の否定的解決, (3次元)ホモロジー同境群, 結び目コンコーダンス群の構造の解明が挙げられる. この講演では, 3, 4次元多様体に対するFloer理論のsurveyを行う. また, 近年発展してきている結び目に付随するFloer理論の拡張・精密化に焦点を置き, どのように結び目の4次元的な情報をFloer理論から引き出すのかについて現状知られている手法のsurveyも行う. 特に, 3種類の“結び目Floer理論“をそれぞれ用いたMilnor予想の証明を3種類紹介する.
- 16:20-17:20
井森 隼人 基本群の表現空間とFloer理論
インスタントンFloer理論には, 低次元多様体の基本群の表現と密接に関わる特徴があり, Casson型不変量のカテゴリー化を実現することが知られている. 特に本講演では基本群の表現空間という観点から, 特異インスタントンFloer理論と関連する以下のテーマ1)-4)について概説を行い, Floerホモロジーの生成元レベルでの理解を深めるとともに, 近年急速に発展しつつあるFloer理論における理論的位置づけを確認することを目的とする.1)平坦接続のモジュライ空間とCasson-Lin-Herald不変量, 2)Khovanovホモロジー理論との関連, 3)Symplectic幾何における対応物, 4)SU(2)ゲージ理論の複素化における対応物.
- 3/10(金)
- 10:00-11:00
井森 隼人 特異インスタントンフレアホモロジーの構成1
特異インスタントンとは, 余次元2をもつ特異点集合の補空間で定義された反自己双対方程式の解であり, 特異点集合のメリディアンに沿って固定されたホロノミーをもつものである. 特異インスタントンを用いた結び目Floer理論の構成方法にはいくつかの変種が存在する.本講演では, 無限次元空間に対する一種の$S^1$同変コホモロジー理論として解釈される構成方法について解説し, さらにChern-Simons汎関数によるフィルトレーションを用いた理論の精密化について述べる. 以上の手法により, (enriched) local equivalence groupと呼ばれる, 強力なコンコーダンス不変量を導入することが本講演の目標である.
- 11:20-12:20
谷口 正樹 特異インスタントンFloerホモロジーの構成2
この講演は井森氏の「特異インスタントンFloerホモロジーの構成1」に続くものである. 「特異インスタントンFloerホモロジーの構成1」において導入された「同変特異インスタントン理論から導かれる“理論上最強の“不変量である(enriched) local equivalence class」からどのように計算可能性の高い・応用に有用な不変量を取り出すのかについて解説を行う. より具体的には, (filtered) special cycleと呼ばれるcycleのクラスを導入し, このcycleのホモロジー類の“高さ“を観察することで2種類の異なる結び目$K$の実数値不変量 $r_0(K)$, $\tilde{s}(K)$を導入し, それらの不変量の関係を述べる. また, 不変量の計算を$(2,q)$-torus knotに対して行う.
- 14:00-15:00
佐藤 光樹 特異インスタントンFloerホモロジーの応用
この講演は井森氏,谷口氏の「特異インスタントンFloerホモロジーの構成1,2」に続くものである.
先の講演で導入された実数値不変量$r_0(K)$, $\tilde{s}(K)$を具体例に対して評価・応用する手法として,次の各手法について解説する.
1)結び目の族に対して$r_0(K)$, $\tilde{s}(K)$の非自明性を検出する手法
2)$r_0(K)$の値から,結び目の族の(結び目コンコーダンス群内での)1次独立性を判定する手法
3)$r_0(K)$, $\tilde{s}(K)$の値から,$1/n$手術の(ホモロジー同境群内での)1次独立性を判定する手法
なお,1)-3)のいずれの手法においても(基本群の表現,Kirby計算,Floerホモロジーの代数的取り扱い等の範疇で扱えるような)未開拓な部分が存在し,さらなる応用の余地が残されている.講演の中で,そのような未開拓な部分についても紹介する.
- 15:20-16:20
長郷 文和 結び目群のtrace-free (traceless) SL(2,C)指標多様体の構造
結び目群のtrace-free表現(meridianの像のtraceがゼロになる表現,traceless)は,X.-S. Lin氏により,integral homology 3-sphereにおけるCasson不変量の枠組みを,結び目外部空間へ適用する際に導入された概念です.この適用によって得られた不変量(Casson-Lin不変量)では
「trace-free SU(2)表現から結び目のsignatureが導出される」
という非常に興味深い仕組みが明らかになりました.Casson-Lin不変量をきっかけとして,trace-free SU(2)表現は,その重要性が認識され,結び目・3次元多様体の研究,特にゲージ理論を用いた手法において活発に研究されています.
では,少し視野を広げて,trace-free SL(2,C) 表現では,どのような風景が見えるでしょうか?この講演では,trace-free SL(2,C) 指標が有する性質をcharacter varietyの視点から,特に
●代数的集合としての幾何構造と表現の性質の対応
●3次元球面の結び目に沿って分岐する被覆(特に二重分岐被覆)の表現との対応
などについて,現在までに得られた講演者の研究結果を解説します.
keywords:metabelian (binary-dihedral) representations, knot determinant, Kauffman bracket skein algebra, ghost characters, proper representations, abelian knot contact homology
- 16:40-17:40
佐野 岳人 A family of slice-torus invariants from the divisibility of reduced Lee classes
We give a family of slice-torus invariants, one defined for each prime element c in a principal ideal domain R, from the c-divisibility of the reduced Lee class in a variant of reduced Khovanov homology.
It is proved that this family contains the Rasmussen invariant sF over any field F.
Moreover, computational results show that the invariants corresponding to (R, c) = (Z, 2), (Z, 3) and (Z[i], 1 + i) are distinct from sQ.
This is a joint work with Kouki Sato (Meijo univ.).
preprint: https://arxiv.org/abs/2211.02494
- 3/11土)
- 10:00-11:00
安部 哲哉 リボンコンコーダンスについて
1981年,Gordonは,リボンコンコーダンスという,3次元球面内の結び目全体のなす集合上の2項関係を導入して,
リボンコンコーダンスが3次元球面内の結び目全体のなす集合上の半順序関係になると予想した.近年,Agolは,Gordonの予想を肯定的に解決した.
この講演では,これらのトピックに関連した基本的な解説を行う.
- 11:20-12:20
プロブレムセッション
このセッションでは,答えが既知である結び目のスライス性に関する問題(ある位相的スライス結び目達が滑らかにスライスでないことを示す)を提示し,
聴講者と共に証明を導く. 提示される予定の問題の解法は特異インスタントン理論を用いたものしか知られておらず,
かつ特異インスタントン理論の扱い方を網羅的に学べる練習問題である.
また, 井森・佐藤・谷口によりまとめられた『結び目とFloer理論周辺の問題集』を配布し, 近年の周辺分野の方向性を紹介する.
時間が許せばそれらの問題から導かれうる理論発展や応用についてもディスカッション形式で聴講者と話し合う.
ノート・スライド
この研究集会は
- 令和5年度学術学研究助成基金(基盤研究(C))「多様体のハンドル分解やデーン手術に関するある問題解決」(研究代表者:丹下基生、課題番号21K03216)
から支援が与えられます。
世話人:安部哲哉(立命館大学), 丹下基生(筑波大学)
Seminar