☆ 集中講義(自然学類) 2000年12月20日(水)〜22(金)
講師: 小野 薫 氏 (北海道大学大学院理学研究科)
題目: 「シンプレクティック多様体の幾何学」
時間・場所: 12月20日(水) 13:45-17:00 学系棟B棟 B627
12月21日(木) 10:00-17:00 学系棟D棟 D814
12月22日(金) 10:00-12:30 学系棟D棟 D814
世話人: 伊藤光弘 (数学系)
集中講義の概略
symplectic幾何学の基礎事項を話した後、いくつかの話題を選んで 紹介する。多様体上に、非退化な閉2次微分形式が与えることで、 symplectic構造が決まる。Darbouxの定理は、次元が同じであれば、 symp1ectic構造は局所的には皆同型であることを主張する。従って、 大域的な振る舞いには、特に関心がもたれる。symplectic構造には、 柔らかい(flexible,soft)側面と剛な(rigid,hard)側面とがある。 これらの両面がはっきりあらわれる結果を、いくつか紹介する。
柔らかい側面を議論する際には、h-principleと呼ばれるものが 重要となる。例として、Lagrangian immersion についての Leesの定理を紹介する。これは、「球面の裏返し」で知られる Hirsch-Smale理論のLagrangian versionである。
剛な側面を論ずるには、擬正則曲線の議論や、generating function の議論が必要となる。例として、Gromovのnon-squeezing theorem の証明の概略を与える。また、Lagrangian immersionとLagrangian embeddingの存在についての本質的な違いにも触れたい。
擬正則曲線の議論は、(特に4次元で)成功をおさめた。これは、 Riemann面からの写像についての議論である。複素幾何では、複素部分多様体を、 (局所的に)正則関数の零点集合としても記述する。一方、一般の概複素多様体 上には、定数ではない(擬)正則関数の存在は期待できない。1990年代半ばに なってから、symplectic多様体でもこうした立場からの部分多様体の構成を、 Donaldson,Taubesが全く別のやりかたで行った。Donaldsonの議論は、(very) ample line bund1eのholomorphic sectionの存在を範としたもので、 現在もDonaldson, Auroux達により研究が進められている。一方、Taubesは、 4次元の場合に、Seiberg-Wittenのmonopole equationの解(の列)から、 擬正則曲線をつくり出すことを行った。こうした結果が、具体的に如何に強カであるかを symplectic packingの問題(Gromov, McDuff-Polterovich, Biran) を例に紹介したい。