集中講義(6月18日〜)

 

講義内容

本講義は、非正則保型形式、すなわちラプラシアンの固有関数の値分布に関するエルゴード的性質を主題とする。たとえば SL(2,Z) の場合、固有値λに対応する保型形式 の絶対値 が大きいような上半平面 H 内の領域は、λ→∞ としたとき、H内のどこにも偏ることなく、限りなく緊密にかつランダムに存在することが、数値計算により予想されている。こうした性質は「量子エルゴード性」と呼ばれる。

 

講義の前半では、最も基本的な場合として、SL(2,Z) のアイゼンシュタイン級数に関して量子エルゴード性が成立することを証明する。証明をみると、量子エルゴード性の成立が保型L関数の臨界線上の非自明な評価と同値であることがわかる。L関数の評価の重要性は、従来から数論において認識されているものであり、こうした問題と同値であるという事実は興味深い。

 

講義の後半では、この量子エルゴード性が他の場合にどのように一般化されるか、その可能性を述べ、現状の報告を行う。cusp form への一般化、高次元への一般化、リー群上の保型形式への一般化などを、時間の許す限り扱う予定である。

 

保型形式およびL関数についての基本的な性質は、講義中、証明せずに用いることがあるが、その都度なるべく説明をつけるようにし、それらの知識を持たない大学院生も聴講できるように工夫したい。

 

参考文献:

  1. P. Sarnak: Arithmetic quantum chaos. The Schur lectures (1992) (Tel Aviv), 183--236, Israel Math. Conf. Proc., 8, Bar-Ilan Univ., Ramat Gan, 1995.
  2. W. Luo and P. Sarnak: Quantum ergodicity of eigenfunctions on PSL(2, Z)H Inst. Hautes Etudes Sci. Publ. Math. No. 81 (1995), 207-237
  3. S. Koyama: Quantum ergodicity of Eisenstein series for arithmetic 3-manifolds. Comm. Math. Phys. 215 (2000), no. 2, 477-486